特定技能「受入機関適合性」について(3)

「特定技能『受入機関適合性』について(2)」で述べさせていただいた受入機関としての要件、受入機関適合性の「⑥実習認定の取消しを受けたことによる欠格事由」をはじめとする欠格事由には、長きにわたり日本の外国人労働者の受入となっている制度「技能実習制度」の反省を踏まえた法律の建付けが垣間見えます。

技能実習生を受け入れていた団体として不正、違法をしたなら、当然にして特定技能外国人も受け入れられないとするもので、その責任は企業としてのみならず、役員にも及びます。

今や、世界から技能実習制度は人権侵害の問題があるとして批判され大変厳しいものとなっている上に、当該制度の監督機関である外国人技能実習機構の実地検査の状況が公表されました。2019年4~9月に起きた実習生の失踪のうち2割にあたる755件で、同機構は20年3月末時点でも企業の労働環境などを調べる実地検査をしておらず、うち557件では、実地検査の基礎資料となる賃金台帳やタイムカードも入手していなかったとのこと。

その内容は非常に杜撰で、同機構は調査の人員不足が指摘されてきた中、業務効率化などで実効性のある手を打たず、役割を十分に果たしてこなかった責任は非常に重いものと認識しております。

一方で受入側の違法な長時間労働や賃金不払いなども増え続け、19年はこうした労働関係法令違反が6796事業所でみつかっています。

国際貢献やら技能等の開発途上地域等への移転といった大義名分、建前と、実習生を安い労働力ととらえる本音の使い分けは、もはや限界であり、この制度を廃止し、特定技能制度に一本化すべきだとの指摘もあるほどです。

特定技能における労働環境整備や生活をはじめとする支援体制に厳しい制度となっているのは、受入側の意識改と革併せて技能実習制度の黒歴史は繰り返してはならないという国策としての考え方があるのは間違いありません。

よって、外国人の在留資格申請のため作成する文書および立証添付資料の量は、ハンパないものとなります。

特定技能「受入機関適合性」について(2)

受入機関適合性(1)では、条文を含んだあまりピンと来ないような書き方をしてしまいましたが、特定技能雇用契約の適正な履行とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

内容としては、以下に分けられます。

①法令の規定の遵守に関するもの(労働、社会保険および租税)

②非自発的離職者の発生に関するもの

③行方不明者の発生に関するもの

④関係法律による刑罰を受けたことによる欠格事由

⑤受入機関の行為能力・役員等の適格性の欠格事由

⑥実習認定の取消しを受けたことによる欠格事由

⑦出入国または労働関係法令の不正行為を行ったことに関するもの

⑧暴力団排除観点の欠格事由

⑨特定技能外国人の活動状況に係る文書作成、据え置き期間等に関するもの

⑩保証金の徴収・違約金契約等による欠格事由

⑪特定技能外国人の支援に要する費用負担に関するもの

⑫派遣形態による受入れに関するもの

⑬労災保険に関するもの

⑭特定技能雇用契約を継続履行できる体制に関するもの

⑮報酬の口座振込みに関するもの

⑯分野特有の基準に関するもの

もうお分かりかと思いますが、特定技能外国人受け入れる企業として、如何に法令を遵守しているか、過去および現在において法令違反はないか、欠格事由に当てはまらないか、支援に係る費用を負担し、経営および事業を継続し支援が履行できるか、といった所謂きちんとした相応な規模の企業ということになるかと思います。被用者が外国人だからといって、ぞんざいな対処は許されないことはもちろん、日本人被用者と同等、もしかしたらそれ以上の支援が必要となります。

特定技能「受入機関適合性」について(1)

特定技能1号外国人が「従事する」活動は、入管法2条の5第3項に適合する特定技能所属機関と雇用契約に基づくものでなければなりません(受入機関適合性)。その雇用契約(特定技能雇用契約)も入管法2条の5第1項に基づくものでなければならず(契約適合性)、契約する特定技能1号外国人を支援するための支援計画も入管法2条の5第6項に基づくものでなければなりません(支援計画適合性)。

特定技能1号外国人を雇用しようとするには、法務省令に適合した特定技能雇用契約の適正な履行、および同じく適合した特定技能外国人支援計画の適正な実施という要件を全て満たしてはじめて土俵にのぼることとなります。

契約適合性を定める入管法2条の5第1項には、特定技能外国人と雇用関係にある最中に関すること、および適正な在留に資するために必要な事項はもちろん、雇用契約機関満了後出国を確保するための措置についても、受入機関に対し定めています。

特定技能1号外国人は、受入機関によって手厚く支援されることを前提とした、受入機関にとっては大変覚悟のいる制度となっています。

特定技能「業務区分該当性」について

入管法が別表第1の2の下欄に示す特定技能1号、および2号の活動内容は、「特定技能1号」については「法務省令で定める相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する活動」、そして「特定技能2号」については「法務省令で定める熟練した技能を要する業務に従事する活動」と定めています。

この法務省令で定める一定程度の技能水準は、各特定産業分野の業務区分ごとに、技能試験等で確認されます。当該業務を類型化したものが業務区分で、特定技能外国人はこの業務に従事しなければならず、受入機関にこの業務が存在しなければなりません。これが業務区分該当性です。受入機関からすると、特定産業分野該当性、日本標準産業分類該当性に当てはまっただけでは安心できません。入口で既にこのようなハードルが待ち構えています。

例えば、素形材産業分野の場合、13区分ごとの製造分野特定技能1号評価試験合格をもって技能水準が担保され、13業務区分とは、鋳造・鍛造・ダイカスト・機械加工・金属プレス加工・工場板金・めっき・アルミニウム陽極酸化処理・仕上げ・機械検査・機械保全・塗装・溶接であり、例えば鍛造の場合、「指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により溶かした金属を型に流し込み製品を製造する作業に従事」することと定められています。(分野別運用指針および運用要領より)

特定技能「日本標準産業分類該当性」について

特定産業分野のうち、素形材産業分野、産業機械製造分野、電気・電子情報関連産業分野(製造3分野)および飲食料品製造分野については、特定技能1号外国人の特定技能所属機関(受入機関)の事業所が、日本標準産業分類に掲げる産業のうち、一定の日本標準産業分類に該当することが求められます。これが、日本標準産業分類該当性であり、事業主でなく事業所に係る要件です。(各特定産業分野告示、特定の分野に係る特定技能外国人受入に関する運用要領より)

製造3分野については、受入対象となる業種の範囲を事業所単位で判断することを明確にするために、「事業所が、一定の日本標準産業分類に該当する産業を行っていること」と告示で規定しています。これは上乗せ告示と呼ばれ、当該産業分野独特のものです。これはすなわち、特定技能1号外国人が業務に従事する事業所において、「直近1年間で」当該産業分類に係る製造品等の売上があることです。

例えば、ボルトやナットを製造する企業の事業所において、直近1年以内に製造品としてそのボルトやナットを出荷しており、当該製造品の売上伝票や請求書が存在すれば、産業機械製造分野で特定技能外国人を受け入れられる可能性があるということになります。(日本標準産業分類 中分類24、小分類248)

製造3分野につきましては、特定技能外国人に係る在留資格認定証明書交付申請、または在留資格変更許可申請の前に、協議・連絡会に加入する必要がありますが、その際にこの該当性を立証するため製造品の売上伝票や請求書等が必要となります。

【総務省 日本標準産業分類】

https://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/sangyo/02toukatsu01_03000044.html

特定技能「特定産業分野該当性」とは

特定技能1号外国人と雇用契約を締結し受入れたい場合、最初に検討すべきは、当該会社が受入機関として「特定産業分野該当性」です。

これは、従事する活動が、特定技能産業分野に属する業務であることが求められます。どのような産業であるかは、法務省令で定められています。

特定技能1号外国人としての要件(「上陸許可基準適合性」といいます。)検討の前に、受入機関(企業側)の要件をまず検討しなければならないのは、この在留資格「特定技能」の大きな特徴ですが、その一番最初に検討すべき「入口」となるものです。

そもそも、この在留資格が創設された趣旨は、「中小・小規模事業者をはじめとした人手不足は深刻化しており,我が国の経済・社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきているため,生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において,一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みを構築するため」です(法務省ホームページより)。

よってこの「特定産業分野」とは、人材確保のための取り組みを一生懸命行ってもなお、人材確保が難しい産業、ということになります。現在法務省令で定められた産業は以下の14分野となります。

・介護分野

・ビルクリーニング分野

・素形材産業分野

・産業機械製造業分野

・電気・電子情報関連産業分野

・建設分野

・造船・舶用工業分野

・自動車整備分野

・航空分野

・宿泊分野

・農業分野

・漁業分野

・飲食料品製造分野

・外食業分野

度々議論に上がる運送業界やコンビニ業界は、残念ながら入っておりません。しかしながら、今後の業界団体の働きかけや潮流によっては、動きがあるかもしれません。個人的には、そうあって欲しい、と願っております。

在留資格「特定技能」について(4)

特定技能評価試験(技能試験)を無試験で特定技能1号に移行できる範囲につての補足です。

技能実習2号または技能実習3号の良好な修了者が特定技能1号に在留資格を変更する場合に、技能試験および日本語試験が免除されるのは、当該技能実習の職種・作業に対応する分野の業務となります。異なる分野の業務に従事する場合は、技能試験は免除されません。

なお、異なる分野の業務に従事する場合でも、介護分野に係る介護日本語評価試験以外では、日本語試験は免除されます。

技能実習3号について注意が必要なのは、試験免除とはいえ、実習期間中に特定技能1号への在留資格変更は原則として認められない、という点です。技能実習生は技能実習計画に基づく活動をすることとなるため、たとえ技能実習3号として既に技能実習2号の実習期間を2年10ヶ月以上修了し良好に修了していたとしても、在留資格の性格上、当該実習計画を全うすることが必要です。

母国に妻が複数いる場合の呼び寄せについて

突然ですが、一夫多妻制が存在する国はアフリカ諸国に多いようです。また二人目以上の妻をめとる際、裁判官の許可を必要とする国もあります。もちろん一夫多妻制を明文で禁止し制限しようとする国もあり、それぞれです。しかし一夫多妻制が存在する国でも、夫には妻を保護し扶助を与える義務があるとされ、それぞれの妻をみな平等に扱わなければならないという決まりがあります。となると、一夫多妻は男性に対しては経済力とえこひいきなどしない度量の広さが求められますので、なかなか大変です。実際、条件が満たせない場合は、イスラム社会でも一夫一婦制が奨励されるとのことです。

なぜこのような話をしたかというと、現在妻と日本で在留しているが、もう一人の妻を母国から呼べるか、または二人(またはそれ以上)の妻と同時に上陸できるか、という相談が度々あるのです。

日本は明治31年、民法によって一夫一婦制が確立しております。刑法では明治13年に、

戸籍法では明治19年に、いわゆる「妾」は姿を消しております。とはいえ、一夫多妻が法律で禁じられた後の近代期でも、妾の風習は残り、社会的地位の高い男性が愛人を囲っていたようですが(渋沢栄一とか)、それはさておき、日本で在留したいと思うなら一夫一婦となります。

前述の相談者のケースでは、先に日本に呼んだ、または夫と一緒に入国した妻以降の妻は呼べません。夫が先に日本に上陸していた場合であって、妻二人を同時に認定証明書交付申請した場合は、二人同時に不交付(不許可)になります。夫は、日本の法律を遵守し、妻を一人だけ呼ぶとしたら、どの妻なのかをきちんと決める必要があります。または、家族内で話し合って検討する必要があります。

さて、かつての日本で妾を持った男性に話を戻すと、それは相手の家族関係などまでも含む経済的にも精神的にも深い関係を維持する、相手の人生丸ごと引き受けたような関係で、言ってみれば複数の家庭を持つようなものだったようです。現代の愛人、不倫のような関係とは随分違ったものであったことが窺えます。

在留資格「特定技能」について(3)

晴れて特定技能評価試験(技能試験)に合格した外国人を受け入れる企業にも要件があります。「受入機関適合性」、つまり特定技能外国人との雇用契約を締結した受入企業の要件に当たります。

法務大臣が、個々の特定技能外国人ごとに、契約の相手方となる「本邦の公私の機関」、受入機関を指定することとなります。ここで注意を要するのが、当該特定技能外国人が転職して雇用契約の相手方となる所属機関が変更となる場合には、在留資格変更手続きが必要となる点です。

技術・人文知識・国際業務等の就労系在留資格の場合は、本邦の公私の機関(勤務先、あるいは契約先)が変更となった場合には、契約機関に関する届出をし、その後の在留期間更新手続きの際に、新たな契約機関に関する資料を提出するといった手続きが一般的ですが、この特定技能については、特定産業分野に変更がなくとも在留資格変更手続きをすることとなります。

さて、「受入機関適合性」の話に戻りますが、この適合性たる基準はどこに定められているのかというと、特定技能基準省令ということになります。その第一条第一項には、特定技能雇用契約の内容の基準のうち、雇用関係に関する事項の基準、そして第一条第二項には、外国人の適正な在留に資するために必要な事項が定められています。

「外国人の適正な在留に資するために必要な事項」とは何か?という話ですが、具体的には、

①帰国担保措置に関するもの。

②健康状況その他の生活状況把握のための必要な措置に関するもの。

③分野に特有の事情に鑑みて定められた基準に関するもの。

①を詳しく書いてみると、外国人との雇用契約終了後、帰国する際の旅費をその外国人が払えないといった場合には、所属機関が旅費を負担してあげなさいよ、というものです。加えて、出国が円滑になされるよう必要な措置をしてあげなさい、というものです。雇用契約が終了したらそれで「はい、以上!」ということではいけません、そこまで面倒を見てあげなさいということです。

②については、例えば、その外国人が病気になった際、外国語の対応が出来る病院をきちんと把握し、何かあれば紹介し、必要があれば付き添ってあげる場面も想定しなくてはいけないかもしれない、ということです。

③これは個人的には一番注意を払わなければいけない点だと思っています。つまり「上乗せ告示」です。その分野を所轄する関係行政機関の長が、法務大臣と協議の上、当該産業上の分野に特有の事情に鑑みて「告示で定める基準に適合」すること、となります。つまり、所轄関係省庁の出す告知の内容も常に掌握しなければならないということです。

「受入機関適合性」の基準の中には、もちろん欠格事由もあります。「日本人が同等の業務に従事する場合の・・・」や「日本人が従事する場合の報酬額と同等以上」といった文言が法令の随所に出てくるのですが、日本人を雇用するのと同じように契約書を締結し、雇用主としての様々な義務を履行してください、ということです。受入機関が一人の外国人を受け入れるには、従前の安価な労働力を得るといったような概念は払拭し、それ相応の意識改革が必要だということになります。

在留資格「特定技能」について(2)

もう一つの特定技能外国人となり得る対象者は、関連する職種・作業に係る「技能実習2号の良好な修了者」です。上陸許可基準である技能試験および日本語試験の合格を免除されます。

この「技能実習2号を良好に修了している者」とは、技能実習を2年10ヶ月以上修了した者であって、技能検定3級若しくはこれに相当する技能実習評価試験(専門級)の実技試験合格者がまずあげられます。在留資格認定証明書交付申請または在留資格変更申請の際に、当該合格証の写しを添付し提出します。

または、正当な理由により、上記の合格証が提出できない場合は、実習実施者等が作成した評価調書が必要です。技能実習生当時の実習実施中の出勤状況や、修得状況を総合的に考慮し、実習状況を記載していただく必要があります。ここで「記載していただく」と書いたのは、技能実習で在留していた際の実習実施機関がそのまま特定技能所属機関(受入機関)とならなかった場合において、実習実施機関にとっては、この評価調書作成は大変後ろ向きな作業であるからです。平たく言うと少々面倒な書類であって、特定技能所属機関が雇用契約をしたいと考えた場合、従前の実習実施機関に、お願いする、という状況になります。そんな時、快諾してくださるでしょうか?例えば、当該技能実習生が一旦母国に出国し、特定技能外国人として在留申請手続きをしようかとなった場合、遡って実習状況を調べ直して記載する必要があります。そもそも、現在は自らの従業員でない人材のためにこのような時間を割くことは、普通に考えて合理的ではありません。

先日経験した事例ですと、当時の実習実施機関の担当者が既に辞職されていて、どうにも書きようがない、と丁重に断られました。技能実習制度上、技能実習評価試験(専門級)の取得が義務ではなかった結構昔の時代だったということもあり、それ以上はこちらとしても何も出来なかったという辛い経験であります。そうした場合は、正攻法で特定技能試験に合格してもらうしかありません。

技能実習からの移行ルートは、既に技能を兼ね備えた即戦力の人材を受け入れられるという点と、技能実習2号を良好に修了した者が特定技能1号への在留資格変更申請をする場合には、一時帰国を要することとはされていないという点が大きなメリットです。