特定技能「受入機関適合性」について(9)

受入機関適合性に関わる「④関係法律による刑罰を受けたことによる欠格事由」については、当然のことながら想像に容易いのではと思います。

禁錮以上の刑、出入国または労働に関する法律違反による罰金刑、暴力団関係法令、刑法等の違反による罰金刑はもとより、社会保険各法および労働保険各法においての事業主としての義務違反により罰金刑に処せられた者も欠格事由に該当します。刑に処せられ、その執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から「5年を経過しない者」が該当します。

特定技能1号外国人の在留資格認定証明書交付申請や在留資格変更申請の際は、提出資料が非常に多いところ、この社会保険各法においての義務履行に係る立証資料として、社会保険料納入状況照会回答票か、健康保険・厚生年金保険料領収証書の24か月分の写しのいずれかを提出します。労働保険各法については、労働保険証等納付証明書(未納なし証明)や、直近1年分の領収証書の写し、労働保険概算・増加概算・確定保険料申告書の写し等を提出します。

この事業主としての義務履行に対する入管の審査方針は、昨今ますます厳しくなっていると感じます。事業主が外国人だったとしても、違法になると知らなかったでは済まされません。ガイドライン「外国人経営者の在留資格基準の明確化について」でも令和2年8月に改定され盛り込まれています。

https://www.moj.go.jp/isa/content/930005791.pdf

永住申請においても、いくら年収が高額だからといって、年金が未払いだったという理由だけで不許可となった高度専門職の外国人と最近話をしました。契約機関(勤務先)も超エリートです。その外国人は、年金制度を知らなかったんだと言っていましたが、いやいやここは日本ですので、先の事業主同様、日本の制度について意識を高くし、義務履行をしなければなりません。「意識」と申し上げたのは、「支払わなければならない、とうっすら気が付いているけど、払わなくても大したことないだろう」という軽い気持ちが外国人の方の心の片隅にはあり、そのあたりの意識を改めてください、といった個人的な気持ちが含まれます。ちょっとは知ってたんでしょ、と言いたくなったことが何度あったか。

話しを戻しますが、特定技能外国人を受け入れる企業としての意識、心構えは、技術・人文知識・国際業務の外国人を受け入れる際と比し、相当高いものを要します。その役員等にも適格性の観点から立証を求められますが、それは次の特定技能受入機関適合性である「⑤受入機関の行為能力・役員等の適格性の欠格事由」となります。

特定技能「受入機関適合性」について(8)

受入機関適合性に関わる「③行方不明者の発生に関するもの」について、特定技能所属機関が雇用する外国人を、その特定技能所属機関が責めに帰すべき事由があって行方不明者を発生させて場合には、受け入れ体制が十分であるとはいえないことから、特定技能基準省令に定める基準に適合しないこととなり欠格事由に該当します。

特定技能運用要領によると、「責めに帰すべき事由」がある(行方不明者を出したのは、特定技能所属機関のせい)とは、雇用条件に示す賃金を適正に払っていない、支援計画を適正に実施していない等の法令違反や基準に適合していない行為が行われていた期間内に、特定技能外国人の行方不明者を「1人でも」発生させていれば、本基準不適合となります。

ここで注意すべき点は、特定技能所属機関が技能実習制度における実習実施者であった場合です。受け入れた技能実習生を実習実施者の責めに帰すべき事由により行方不明者を発生させた場合にも欠格事由に該当します。特定技能所属機関が雇用する「外国人」とあるのは、実習実施者として技能実習生の行方不明者を出してしまったけれど、特定技能所属機関としてなら問題ない、またはリセットされる、ということは決してないからです。

技能実習生の失踪については、一概に実習実施者だけが悪いともいえないセンシティブな社会問題であると感じています。例えば、技能検定「随時3級」実技試験の義務化に伴い、技能実習生は、技能検定の受検は「人生で2回限りの権利」となります。それに不合格となれば、1年満了での帰国を余儀なくされ、当該技能実習生の「人生計画」を大きく狂わせ、場合によっては失踪及び不法滞在・不法就労を誘発させ得ます。だからといって技能検定に不合格だったというだけで実習実施者に帰責事由はありません。実習実施者にとっては優良要件の適合に影響が出たりはしますが。

国際貢献の名のもとに、実習生を安い労働力ととらえる建前と本音の使い分けはもはや限界であり、世界からも人権侵害の問題があるなどとして批判されている技能実習制度ですが、一言では片づけられない深層があると感じています。

特定技能「受入機関適合性」について(7)

受入機関適合性に関わる「②非自発的離職者の発生に関するもの」については、当然のことながら「自発的に」離職した者が出た場合は受入機関が欠格事由に該当しませんが、特定技能運用要領に定める「自発的に離職した者に『該当しない』場合」には注意が必要です。つまり、以下の場合には「非自発的に離職させた」こととなり、一人でも非自発的離職者を発生させた場合には、欠格事由に該当します。

①人員整理を行うための希望退職の募集又は退職勧奨を行った場合(天候不順や自然災害の発生,又は,新型コロナウイルス感染症等の感染症の影響により経営上の努力を尽くしても雇用を維持することが困難な場合は除く。)

②労働条件に係る重大な問題(賃金低下,賃金遅配,過度な時間外労働,採用条件との相違等)があったと労働者が判断したもの

③就業環境に係る重大な問題(故意の排斥,嫌がらせ等)があった場合

④特定技能外国人の責めに帰すべき理由によらない有期労働契約の終了

①については、「希望退職の募集」と「退職勧奨」との間に「又は」とあります。「人員整理を行うための」は「退職勧奨」にもかかると解されます。ということは、人員整理目的以外の理由で、適法に退職勧奨を行った場合で、労働者の自由な意思の下合意退職に至った場合は、当該労働者を離職させたことにはならず、自発的離職者にあたりうると解されます。

このことは、特定技能外国人の在留資格申請の際の提出書類、参考様式1-11号「特定技能所属機関概要書」内で確認されます。項目3の「基準適合性に係る事項」をご参照ください。この書類は、在留資格認定証明書交付申請、在留資格変更許可申請、在留期間更新許可申請のいずれにも提出する書類で、このことは都度審査対象になるものです。

上記事由がないのであれば、当該離職者は自発的離職者に当たりうると解され、欠格事由に該当しないこととなります。①の「新型コロナウイルス感染症等の感染症の影響により経営上の努力を尽くしても雇用を維持することが困難な場合は除く」とある条文は、今のコロナ禍における経営の厳しさを受けてのものだと思います。如何にこのパンデミックを凌ぐのか、経営者の方のご苦労が窺えます。

特定技能「受入機関適合性」について(6)

受入機関適合性に関わる「②非自発的離職者の発生に関するもの」については、特定技能基準省令2条1項2号に定められていますが、それについては大変慎重な解釈が求められます。

非自発的離職者の発生に関する規定と聞くと、一見特定技能外国人を雇ったならば、支援を手厚くすることはもちろん、むやみに解雇してはならない、といったことかと思っていましたが、もっと厳格な規制であることが窺えます。受入機関(特定技能所属機関)が、現に雇用している国内労働者を非自発的に離職させ、その「補填」として特定技能外国人を受け入れることを禁じている、ということなのです。特定技能制度は、策は尽くしてもどうしても人材の確保が難しい、という産業を特定して創設されたところ、元から雇用していた労働者を解雇し、次なる労働者を迎え入れることをするのであっては、この趣旨とは明らかにそぐわないからです。そもそもこのような発想は、外国人労働者の方が日本人より安価に雇える、といったゲスな思惑が根底にあることが垣間見えますよね。

これは、特定技能外国人との雇用契約締結の日の「前1年以内」のみならず、雇用契約締結「後」も非自発的離職者を発生させてはならないことが求められます。

ただし、特定技能外国人に従事させるのと同種の業務に従事させる労働者を、非自発的に離職させても受入機関が欠格事由にあたらない場面があります。それを特定技能基準省令2条1項2号イロハで定めているわけです。

それは以下の通り相当程度に狭い範囲となります。

①労働者が定年その他これに準ずる理由により退職した場合

②労働者が自己の責めに帰すべき重大な理由により解雇された場合(つまり重責解雇、ですね)

③労働者が雇止めにより有期労働契約を終了された場合

③の場合は、もし労働者が有期労働契約の更新の申し込みをしたとか、有期労働契約の期間満了後すぐにまた有期労働契約の申し込みをしたような場合に、当該労働者の責めに帰すべき重大な理由や、その他正当な理由により、受入機関は申し込みを拒絶してこの有期労働契約を終了させる、といった場合に限られます。

②については、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるとしてその「解雇」が有効であるような場合でも、当該労働者側に責めに帰すべき「重大な」理由が必要で、その理由がない限りは、受入機関は欠格事由に該当してしまいます。その「重責解雇」の意義についても、相当程度重大なものと認識すべきでしょう。当該労働者が刑法規程違反による処罰を受けたことや、故意または重過失により事業所の設備等を破損した、信用失墜により受入機関に損害を与えた、機密漏洩等が考えられます。他に当該労働者の労働基準法に基づく就業規則の違反もあるかと思いますが、これについても軽微なものは該当せず、特に重大なものに限られます。

このように、特定技能外国人受入のためには、受入機関は相当な覚悟をもって人事労務管理を行い継続させ、同時に売上を伸ばし、職場環境を整える必要があります。非自発的離職者を出来るだけ出さないことは言うまでもありません。

特定技能「受入機関適合性」について(5)

受入機関適合性に関わる「①法令の規定の遵守に関するもの(労働、社会保険および租税)」については、遵守すべき労働関連法令の中に、労働安全衛生法への遵守も規定されています。

当該特定技能外国人雇入れ時の安全衛生教育はもとより、作業内容が変更した際および危険有害業務へ従事する際の安全衛生教育、また職長への教育も遵守事項となっています。健康診断も重要な遵守事項で、雇入れ時に法令で定められた項目の健康診断が必要です。

特定技能1号外国人の在留資格認定証明書交付申請、在留資格変更許可申請においては、参考様式第1-3号「健康診断個人票」に定められた項目の健康診断実施と申請人の確認と署名も求められます(申請人には母国語で併記された書面で内容を把握してもらったうえで署名してもらう必要があります)。

その後も定期的な健康診断が義務付けられており(労働安全衛生規則44条、常時使用する労働者に対し1年以内に1回、定期健康診断を行う必要があります)、継続的な支援および管理が求められています。

常時50人以上の労働者を使用する事業場では、1年以内ごとに1回、ストレスチェックを実施し、検査結果等を所轄の労働基準監督署に報告しなければなりません。これは確かに義務とはいえ、従業員の精神的負担やストレスを軽減、管理するためにも安全衛生管理体制を整えておく必要があるといえます。業種や常時使用する労働者の数によっては、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者等を選任する義務があることには注意が必要で、専門家に相談しながら体制作りに対応することが必要だと思います。

特定技能「受入機関適合性」について(4)

同ブログの「受入機関適合性について(1)」で記した「①法令の規定の遵守に関するもの(労働、社会保険および租税)」については、特定技能所属機関が労働関係法令、社会保険関係法令、そして租税関係法令を遵守していることを求められます。

従業員を雇うわけですから、当たり前と言えばあたり前ですが、そのあたり前を怠る企業も散見される中、改めて規制しているということになります。特定技能1号外国人の在留資格認定証明書交付申請、在留資格変更許可申請においては、これらに係る添付資料で立証する共に、提出書類内で詳細に書き込むこととなります。在留期間更新許可申請においては、一定期間内に他の従業員申請時に提出していれば提出省略も可能ですが、内容に変更があった場合には提出することとなります。

注意が必要なのは、特定技能基準省令において「労働に関する法令」としているのみで、法令名を特定して規定していないことにあります。この意義は、数ある労働関係法のうち、一つでも遵守していない状態で特定技能外国人を雇用していた場合においては、受入機関適合性を満たさない、ということになります。

これは社会保険関係法令、租税関係法令においても同様であり、遵守していない場合には不法就労助長罪が成立する可能性もあります。

労働関係法令の遵守に付きましては、雇用契約の成立に当たり、あっせんの場面にも及びます。あっせんを行った者が職業安定法に基づく無料職業紹介の届出若しくは許可、または有料職業紹介事業の許可を得ている者か、といったことにも審査が及びます。参考様式第1-16号「雇用の経緯に係る説明書」にその経緯と詳細を記載することとなります。

特定技能「受入機関適合性」について(3)

「特定技能『受入機関適合性』について(2)」で述べさせていただいた受入機関としての要件、受入機関適合性の「⑥実習認定の取消しを受けたことによる欠格事由」をはじめとする欠格事由には、長きにわたり日本の外国人労働者の受入となっている制度「技能実習制度」の反省を踏まえた法律の建付けが垣間見えます。

技能実習生を受け入れていた団体として不正、違法をしたなら、当然にして特定技能外国人も受け入れられないとするもので、その責任は企業としてのみならず、役員にも及びます。

今や、世界から技能実習制度は人権侵害の問題があるとして批判され大変厳しいものとなっている上に、当該制度の監督機関である外国人技能実習機構の実地検査の状況が公表されました。2019年4~9月に起きた実習生の失踪のうち2割にあたる755件で、同機構は20年3月末時点でも企業の労働環境などを調べる実地検査をしておらず、うち557件では、実地検査の基礎資料となる賃金台帳やタイムカードも入手していなかったとのこと。

その内容は非常に杜撰で、同機構は調査の人員不足が指摘されてきた中、業務効率化などで実効性のある手を打たず、役割を十分に果たしてこなかった責任は非常に重いものと認識しております。

一方で受入側の違法な長時間労働や賃金不払いなども増え続け、19年はこうした労働関係法令違反が6796事業所でみつかっています。

国際貢献やら技能等の開発途上地域等への移転といった大義名分、建前と、実習生を安い労働力ととらえる本音の使い分けは、もはや限界であり、この制度を廃止し、特定技能制度に一本化すべきだとの指摘もあるほどです。

特定技能における労働環境整備や生活をはじめとする支援体制に厳しい制度となっているのは、受入側の意識改と革併せて技能実習制度の黒歴史は繰り返してはならないという国策としての考え方があるのは間違いありません。

よって、外国人の在留資格申請のため作成する文書および立証添付資料の量は、ハンパないものとなります。

特定技能「受入機関適合性」について(2)

受入機関適合性(1)では、条文を含んだあまりピンと来ないような書き方をしてしまいましたが、特定技能雇用契約の適正な履行とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

内容としては、以下に分けられます。

①法令の規定の遵守に関するもの(労働、社会保険および租税)

②非自発的離職者の発生に関するもの

③行方不明者の発生に関するもの

④関係法律による刑罰を受けたことによる欠格事由

⑤受入機関の行為能力・役員等の適格性の欠格事由

⑥実習認定の取消しを受けたことによる欠格事由

⑦出入国または労働関係法令の不正行為を行ったことに関するもの

⑧暴力団排除観点の欠格事由

⑨特定技能外国人の活動状況に係る文書作成、据え置き期間等に関するもの

⑩保証金の徴収・違約金契約等による欠格事由

⑪特定技能外国人の支援に要する費用負担に関するもの

⑫派遣形態による受入れに関するもの

⑬労災保険に関するもの

⑭特定技能雇用契約を継続履行できる体制に関するもの

⑮報酬の口座振込みに関するもの

⑯分野特有の基準に関するもの

もうお分かりかと思いますが、特定技能外国人受け入れる企業として、如何に法令を遵守しているか、過去および現在において法令違反はないか、欠格事由に当てはまらないか、支援に係る費用を負担し、経営および事業を継続し支援が履行できるか、といった所謂きちんとした相応な規模の企業ということになるかと思います。被用者が外国人だからといって、ぞんざいな対処は許されないことはもちろん、日本人被用者と同等、もしかしたらそれ以上の支援が必要となります。

特定技能「受入機関適合性」について(1)

特定技能1号外国人が「従事する」活動は、入管法2条の5第3項に適合する特定技能所属機関と雇用契約に基づくものでなければなりません(受入機関適合性)。その雇用契約(特定技能雇用契約)も入管法2条の5第1項に基づくものでなければならず(契約適合性)、契約する特定技能1号外国人を支援するための支援計画も入管法2条の5第6項に基づくものでなければなりません(支援計画適合性)。

特定技能1号外国人を雇用しようとするには、法務省令に適合した特定技能雇用契約の適正な履行、および同じく適合した特定技能外国人支援計画の適正な実施という要件を全て満たしてはじめて土俵にのぼることとなります。

契約適合性を定める入管法2条の5第1項には、特定技能外国人と雇用関係にある最中に関すること、および適正な在留に資するために必要な事項はもちろん、雇用契約機関満了後出国を確保するための措置についても、受入機関に対し定めています。

特定技能1号外国人は、受入機関によって手厚く支援されることを前提とした、受入機関にとっては大変覚悟のいる制度となっています。

特定技能「業務区分該当性」について

入管法が別表第1の2の下欄に示す特定技能1号、および2号の活動内容は、「特定技能1号」については「法務省令で定める相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する活動」、そして「特定技能2号」については「法務省令で定める熟練した技能を要する業務に従事する活動」と定めています。

この法務省令で定める一定程度の技能水準は、各特定産業分野の業務区分ごとに、技能試験等で確認されます。当該業務を類型化したものが業務区分で、特定技能外国人はこの業務に従事しなければならず、受入機関にこの業務が存在しなければなりません。これが業務区分該当性です。受入機関からすると、特定産業分野該当性、日本標準産業分類該当性に当てはまっただけでは安心できません。入口で既にこのようなハードルが待ち構えています。

例えば、素形材産業分野の場合、13区分ごとの製造分野特定技能1号評価試験合格をもって技能水準が担保され、13業務区分とは、鋳造・鍛造・ダイカスト・機械加工・金属プレス加工・工場板金・めっき・アルミニウム陽極酸化処理・仕上げ・機械検査・機械保全・塗装・溶接であり、例えば鍛造の場合、「指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により溶かした金属を型に流し込み製品を製造する作業に従事」することと定められています。(分野別運用指針および運用要領より)